ヌゥママの空間。

sakaeyusuke2007-04-24

去る21日、4月のザ・ちゃらんぽらんvol.ENJOYがありました。

井本さんが盲腸でぶっ倒れて心配だったけど、無事開催。

前々日のヨシモト∞で入院明けの井本さんに久々に会った時に、

「腹が爆発したって聞きましたけど、大丈夫でしたか!?」って言うと、

「おまえそれ、藤原が言うてたんやろ!」って何故か殴られました。

まぁ何にせよ、順調に全快してもらいたいです。

5月のENJOYはお休みで、次回は6月の16日。

5月は25〜27日に、笹塚ファクトリーでフォービーズの公演があるので、

まずはそちらを見に行きましょう。

そんでもって6月は19日にトータルテンボスの久々のトークライブ「菖蒲苑」と

サカイストの漫才ライブもありますので、みなさんお楽しみに。

ヨシモト∞も遊びに来てね。


さてさて、話題はまたしても花びら大回転。


今回はアルバイトの話である。今でもいい加減やめたいと思いつつ、

生活のために中々やめられないアルバイト。

でも大学時代のアルバイトは親の仕送りもあったし(ビルはボンボンの子です)

今思えば完全なこづかい稼ぎで働いてたなぁ〜。


イヤになったらすぐトンズラこいてたので、当時の彼女へのプレゼント代やデート代を

稼ぐ時期になると適当にフロムエーを開いて見るような、まるでアホウな

アルバイターでありました。


何個かやったアルバイトの中でも特に思い出深いのが、何と、スナックのボーイ。

以前中国人のスナックに行った話をこのブログで書いたけど、今思えば

あのお店よりも酷いスナックでバイトしていたことがありました。


あれは確か、大学3回生の頃だった。

当時、大阪は富田林という片田舎にある大学の近くで一人暮らしをしていた。

季節はもうすぐクリスマス。当時の彼女のプレゼント代欲しさに、また何か新しいバイトを

探していた頃だったと思う。原付で時間つぶしがてら街を走っていると、たまたま

通りかかったスナックに『求人募集!』という手書きの貼り紙を見つけ、

何故か吸い込まれるように、飛び込みで面接を受けた。

お店の名前は「ドロー」。カウンターが5席とボックス席が1つの小さなスナック。

・・・場末。店内を見渡した時、その言葉がくっきりと浮かんだ。

面接をしてくれたのは、ヌゥそっくりの50過ぎのママだった。


「あの〜外の貼り紙見て来たんですけど・・・」

「貼り紙?・・・ヤダ、これ!?本当に来るとは思わなかった!」

「・・・あの〜ここでは、どういったお仕事を?」

「う〜んとね〜、まぁガッツよね!

「???・・・ここって、他に働いてる人って・・・?」

「私一人よ。じゃあチーフ、明日から来てよ」

「チーフ?あの〜履歴書とかは明日で・・・?」

「私、過去にはこだわらないの。私にも言いたくない過去があるから


という謎の問答の末、見事合格。さっそく次の日から働くことになった。

そして翌日、指定の時間に店に行くと、既にママがスッピン顔でカウンターに座っていた。

「(怪訝な様子で)誰?お店は8時からよ」

「いや、昨日面接に来た坂恵です」

「・・・・・・あらヤダ〜!誰かと思ったじゃない!もう〜ビックリさせないでよ〜!」


『更年期』、という言葉がそっと頭をよぎった。

自分は全然構わんが、お客の顔をこうして忘れているのは問題ではなかろうか。

「じゃあさっそくよろしくね」


開店までにやる事は、入り口の水撒き、お店の窓拭き。そしてお酒用の氷やおつまみを

買いに行って、コップの乾拭き。そうこうしていると、そろそろ開店時間の8時。

ヌゥママの分厚〜いメイクもバッチリ。しかし服はトレーナーにジーパンという

日曜のパパみたいないでたちだ。

軒先の看板に灯りが点った。初仕事だから、めいっぱい働くぞ〜っと意気込むが、

・・・来ない。

客が全然来ない。


しょうがないんで色褪せたゴルゴ13のコミックを読み始めるが、3巻まで読んだところで

まだ客が来ない。


ヌゥママ「ヒマだと思ってるでしょ。もうすぐ混みはじめるから」


しかし10時になってもお客が来る気配は全くない。やがて11時になって、ヌゥママが

「今日はみんな奥さんの手料理が食べたくなったのね。もう閉めましょう」

ということで、閉店。その日の売り上げは0円どころか、自分の人件費と氷代やおつまみ代を

合わせるとマイナス。

ヌゥママは「こんな日もガッツよ」と帳簿を付けながら、その場を濁していた。


翌日。また例によって開店作業をし、定時に軒先の看板に灯りを点す。

しかし今日も、客は来ない。

来ない・・・。

果たして世の中に、こんなにお客が来ないお店って在り得るんだろうか?というぐらい

客が来ない。店前のジュースの自動販売機の方が、よっぽど流行っている。

5巻までしかない色褪せたゴルゴ13のコミックの、既に2周目の2巻目を

読み始めたところで、ママが甘い声で囁いてきた。


ヌゥママ「チ〜フ〜最近肩こりがひどいの〜ちょっと、揉んでくれる?」


そして、50過ぎのオバハンの肩をもむ。これが若いギャルなら儲けもん!とニヤニヤ顔で

飛びつくところだが、もちろん、そんな気は微塵も起こらない。


年増の女性の肉付いた肩の凝りがほぐれる事だけに集中し、ひたすら力を込める。

ヌゥママは時折、「あ〜気持ちいいぃ〜」と煙草臭い吐息を漏らす。

店にある柱時計がコツコツと時を刻み、窓の外は星空を暗い雲が覆っていて、

小雨が降っている。このお店だけ世間に置いてけぼりを食らったような、密閉された空間。

もしかして今世界中で生きている人間は、ヌゥママと自分の2人っきりだけ

なんじゃないだろうか。そんな妙な不安が胸を締め付ける。

だとすれば、今すぐこの場から脱出したい!!

そんな事をヌゥママの肩に力を込めながらぼ〜っと考えていたら、

ふとヌゥママが口を開いた。


「チーフ、カラオケで何か歌って・・・泣けるやつ


何だそのリクエスト?と思いつつ、ヌゥママもアンニュイな気持ちなんだろう。

そりゃそうだ、こんなにお客が来ないんだもの。

曲目がやたら古いカラオケ本をパラパラめくり、しょうがないんで

うる覚えで知っている、松山千春の「恋」をチョイスした。


男は〜いつも待たせるだけで〜 女は〜いつも待ちくたびれて〜 ♪


待ちくたびれて・・・ヌゥママが手拍子を止めて、そっとハンカチで

自分の目尻に溜まった涙を拭う。

気まずい。「待ちくたびれて」、それは紛れもなくお客のことだった。

カラオケが終わって、その日は閉店した。


そんなスナックボーイ生活5日目の事だった。

例によってお客が全く来ない仕事終わり、ヌゥママが「バイト代払うね」と申し出てきた。

渡された封筒には3千円が入っていた。

3千円?

1日4時間労働で×5日で、3千円!?

時間給に換算すれば、何と150円である!!

昭和初期か!!


そして僕は、2度とそのお店には行かなかった。


あれから、もう5・6年経つ。あのスナックは、今どうなったのだろうか。

自分が働いた5日間は全くお客が来なかったけど、それはたまたまだったことを願う。

いつかあの店の前を通りかかって、もし軒先の看板の灯りが点いていたら、

顔でも出そうかしら。

いや、そもそもあの店自体、本当に現実に存在するものだったのだろうか。

客は「来ない」じゃなくて、きっと「見つけられなかった」のだろう。

あの空間でニッコリ笑って客を待つヌゥママは、「千と千尋の神隠し」みたいな

若き日に僕が見た、幻だったのだ。